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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 108-110 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.108

Editorial CommentEditorial Comment

左心低形成症候群に対する治療方針についての考察Consideration of Surgical Strategy for Hypoplastic Left Heart Syndrome

独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Chukyo Hospital ◇ 〒457-8510 愛知県名古屋市南区三条一丁目1番10号1-1-10 Sanjo, Minami-ku, Nagoya-shi, Aichi 457-8510, Japan

発行日:2015年5月1日Published: May 1, 2015
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はじめに

左心低形成症候群(HLHS)に対する治療方針には,現在おおまかに下記のような複数の選択がある.

  • 方針Ⅰ. NW→BDG→Fontan.
  • 方針Ⅱ. BPAB→NW+BDG→Fontan.
  • 方針Ⅲ. BPAB→NW→BDG→Fontan.
  • 方針Ⅳ. 移植.

(NW: Norwood手術,BDG: 両方向性Glenn手術,BPAB: 両側肺動脈絞扼術)

このうち本邦では現実的には方針Ⅰ~Ⅲの選択になるが,各施設によりそれぞれの手術の目標時期は微妙に異なり,個々の症例によって各施設内でも複数の治療方針が選択されているのが現状であろう.また,NWではBT shuntにするのかRV–PA shuntにするか,動脈管の維持はPGE1の点滴にするのかstentを留置するのか,という選択もあり,それぞれに長短所がある.

山内論文は,BPAB後3ヵ月でのNW+BDG(G群)と,BPAB後1ヵ月でのNW+RV–PA shunt(S群)を比較したもので,後者で肺動脈狭窄が減り,BDG後のSVC圧が低く,全体の手術成績が改善したというものである.ここでは,考察に述べられているように主に,肺動脈の発育,脳神経系の発達,全体の成績という観点から,治療方針との関連についてコメントを加える.

肺動脈の発育への影響

著者らはNW時の肺動脈形成術がG群では36.3%に要したのに対し,S群では要した例はなかったとしており,この差の原因はBPABからの期間が3ヵ月か1ヵ月かという期間の差である可能性は高い.BPAB後の肺動脈の発育不全や肺動脈へのインターベンション率の増加についての報告1,2)は増えてきており,著者らも述べているとおりDaviesら2)は90日以上のbanding期間やきついbandingが肺動脈へのインターベンションを要するrisk factorだとしている.

ただし,S群でBDG後のSVC圧が低かったことについては,BDG時の年齢がG群で約4ヵ月,S群で約7ヵ月という時期の差の要因が大きいのではないかと思われる.

脳神経系の発達への影響

昨今では急性期の成績が安定してきたが,今後は術後遠隔期までの脳神経系の発達への影響も治療方針を選択するうえでますます重要視されることになっていくと思われる.

著者らも引用しているようにLynchら3)は,37例のHLHS例に対しNW術前と術後1週の頭部MRIを施行し,出生から手術までの期間が長い方が術後の脳室周囲白質軟化症(PVL)の程度が大きいことを示している.この報告ではPVLの程度が小さかった群と大きかった群の手術日齢は,5.3±1.5日 vs. 3.1±1.7日とわずか2日あまりの差であるがp<0.001の強い有意差が出ている.この結果からすると出生後3日目程度までのかなり早期に手術介入しないとPVLの程度を軽減できないことになる.

一方では新生児期の体外循環の使用が脳神経系の発達に与える悪影響も従来から指摘されており4),脳以外にも他臓器への影響も考慮しなくてはならず5,6),出生後早期の体外循環の使用を避けつつ脳循環を改善させる選択として,早期のBPABは良い選択と考えられる.しかし,未だBPAB前後の脳神経学的影響を詳細に検討した報告は見当たらず,今後の検討が待たれる.

全体の成績から

2010年から2012年までのThe Society of Thoracic Surgeons Congenital Heart Surgery Databaseからの報告7)では,北米100施設のうち50施設は全例初回NW(上記の方針Ⅰに該当)を行っており,4施設のみが全例Hybrid手技(上記の方針Ⅱ,Ⅲに該当)を用いており,残りの42施設は個々の例のrisk factorなどを考慮して両者を選択し分けているという現状のようである.その中で注目すべきは,各施設の全手術例数あるいはHLHS症例数に限っても,症例数が少ない施設ほどhybrid手技を選択する割合が高く,多い施設ほど初回NWを選択している傾向があることである.また,hybrid手技例の入院死亡率は,hybrid手技を多く用いる施設か,あまり用いない施設か,には関連していなかったが,NW後の死亡率はhybrid手技を多く用いる施設の方があまり用いない施設より高かった(43% vs. 16%)と報告している.

本邦でもおそらく同様な傾向があり,症例数の少ない施設の割合は北米よりも多く,その分成績が安定しやすい方針ⅡまたはⅢを選択する施設の割合が多いように思われる.症例数の多い施設でも方針ⅠからⅢへ変更する施設もあり,成績が改善したと報告している8).言い換えれば,方針ⅡまたはⅢの方が安全域の広い,認容性の高い方針と言えると考えられる.

方針Ⅱの11例と方針Ⅲの14例で比較したDaviesらの報告9)では,いずれかの方針に,全体的な生存率の明らかな優劣はみられなかったとしている.しかしとくに大動脈弁閉鎖例で方針Ⅱを選択した場合は生存率が低い傾向がみられ,上行大動脈の逆行性血流による冠動脈血流不全にBPAB後長期にさらされる影響がありうるとしている.また方針Ⅲの症例の中においては,生存退院例は死亡例に比し有意にBPABからNWまでの期間が短く(26.2±26.7日 vs. 77.5±34.5日),大動脈弁閉鎖例や,BPABを行っても体重増加が得られないような例では早期のNWが望ましいとしている.

当院の治療方針と成績

当院でも,多少の手術時期選択の違いはあるが,歴史的に著者らの施設と同様な経過で治療方針の変遷を辿ってきており,結果として経時的に手術成績の改善を認めた(Fig. 1).

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 108-110 (2015)

Fig. 1 Norwood手術成績

1994~2003年までは方針Ⅰで臨んだが,わずか2例の耐術例のみであった.2004~2009年までは方針Ⅱに変更し耐術例は増加したものの,生後3ヵ月あまりでBDGを行うと著者らの報告と同様に術後とくに急性期にSVCの圧が高値で管理に難渋する例を経験した.また,そのような例ではBDG術後Fontan待機中外来にて脳出血を生じ失った例も経験した.このため2010年からは方針Ⅲに変更した.当初はBPAB後NWの時期を生後1ヵ月過ぎまで待機していたが,概して体重はあまり増えず,また大動脈閉鎖例では待機中心電図上虚血性を疑う変化をきたす症例があったり,動脈管がPGE1使用下でも狭窄をきたし準緊急手術となる例を経験したりしたことからNW時期を徐々に早め,現在では生後2週間から1ヵ月までを目標に行うことにしている.

またBPABの時期も方針Ⅱの当初は生後1週間程度待機したりしていたが,わずか生後1日でもhigh flow shockとなった症例を経験してからは,遅くとも生後3日までには行うようにしている.

このような変遷から現在の当院の方針としては方針Ⅲで,とくに生後1~3日目のBPAB, 生後2週~1ヵ月までのNW(RV–PA or BTS),生後3~6ヵ月くらいでのBDGを基本としている.

もちろん現方針にも問題点はあり,RV–PAを選択した場合方針Ⅱに比べて長期的に心機能に悪影響はないのかという点はあるが,山内論文にも示されているように明らかな差はなく,今後の長期の成績の報告が待たれるところである.また,方針ⅢでNW時期を生後2週近くに早めた場合,方針Ⅰとどれだけ差があるのかということにもなる.しかし,たとえ1週間でもBPABをして待機することは腎機能をはじめ新生児期早期の各臓器の機能の成熟にとって有利で,術後管理を非常にスムーズなものにしていると考えている.

他にもBPAB部はNW時にbanding tapeを除去して周囲の癒着組織を剥離するのみで狭窄は残らず,おそらく生後早期にBPABを行い脳循環の改善を図り早期の体外循環使用を回避することは長期の脳神経の発達にも有利ではないかと考えている.

今後はFontan術後の長期遠隔期のFontan循環の状態,神経学的発達なども考慮に入れたうえで,治療方針の妥当性を検討していくことが必要であろう.

引用文献References

1) Baba K, Kotani Y, Chetan D, et al: Hybrid versus Norwood strategies for single-ventricle palliation. Circulation 2012; 126 Suppl 1: S123–S131

2) Davies RR, Radtke WA, Klenk D, et al: Bilateral pulmonary arterial banding results in an increased need for subsequent pulmonary artery interventions. J Thorac Cardiovasc Surg 2014; 147: 706–712

3) Lynch JM, Buckley EM, Schwab PJ, et al: Time to surgery and preoperative cerebral hemodynamics predict postoperative white matter injury in neonates with hypoplastic left heart syndrome. J Thorac Cardiovasc Surg 2014; 148: 2181–2188

4) Hsia TY, Gruber PJ: Factors influencing neurologic outcome after neonatal cardiopulmonary bypass: What we can and cannot control. Ann Thorac Surg 2006; 81: S2381–S2388

5) Jonas RA: Should we be doing the Norwood procedure sooner? J Thorac Cardiovasc Surg 2014; 148: 2188–2189

6) Karamlou T, Sexson K, Parrish A, et al: One size does not fit all: The influence of age at surgery on outcomes following Norwood operation. J Cardiothorac Surg 2014; 9: 100

7) Karamlou T, Overman D, Hill KD, et al: Stage 1 hybrid palliation for hypoplastic left heart syndrome—Assessment of contemporary patterns of use: An analysis of The Society of Thoracic Surgeons Congenital Heart Surgery Database. J Thorac Cardiovasc Surg 2015; 149: 195–202

8) Ota N, Murata M, Tosaka Y, et al: Is routine rapid-staged bilateral pulmonary artery banding before stage 1 Norwood a viable stategy? J Thorac Cardiovasc Surg 2014; 148: 1519–1525

9) Davies RR, Radtke W, Bhat MA, et al: Hybrid palliation for critical systemic outflow obstruction: Neither rapid stage 1 Norwood nor comprehensive stage 2 mitigate consequences of early risk factors. J Thorac Cardiovasc Surg 2015; 149: 182–193

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